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ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ

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 それほど昔のことではない。その名は思い出せないが、スペインはラ・マンチャ地方のある村に、槍や古びた楯を部屋に飾り、やせ馬と足の速い猟犬をそろえた、型通りの紳士が住んでいた。われらの主人公は、やがて五十歳になろうとしていた。骨組みはがっしりしていたものの、やせて、頬のこけた彼は、大変早起きで、狩りが大好きであった。

 この紳士は、暇さえあれば我を忘れて、むさぼるように騎士道物語を読みふけった挙句、ついには狩りに出かけることはおろか、家や畑を管理することもすっかり忘れてしまった。読書が病みつきになった紳士は、こともあろうに、読みたい騎士物語を買うために、広大な畑を売り払ってしまった。その種で手に入るものを、すべて自分の家に持ち込んだ。

 紳士はこの種の読み物に夢中になり、来る日も来る日も、夜の目も寝ずに読み続けたために、睡眠不足とあまりに多くの読書の為に脳みそがからからに干からびてしまい、ついには正気を失ってしまった。本の中で読んだ魔法、戦い、決闘、愛のささやき、さらには、ありもしない馬鹿げたことで頭がいっぱいになった彼は、そうした雲をつかむような絵空事がすべて真実で、この世でそれほど確かな話はないと信じ込んでしまった。

 思慮分別をすっかり失くした紳士は、これまで世の狂人の誰一人として思いつかなかったような、奇妙な考えに陥ることになった。自ら鎧兜に身を固め、馬にまたがって遍歴の騎士となり、世界中を歩き回りながら、読み覚えた遍歴の騎士のあらゆる冒険を実際に行うことによって、世の中の不正を取り除き、いかなる危険にも身をさらして克服し、かくしてとこしえに語り継がれる手柄を立てることこそ、自分の名誉を増すためにも、きわめて望ましいと同時に、必要なことであると考えた。(英雄の誕生)
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 「拙者の目に狂いがなければ、これこそかって人の目に触れたあらゆる冒険をしのぐ、最も有名な冒険になるはずじゃ。と申すのは、あれに見える黒衣の連中は、かどわかしてきたどこかの姫君を馬車に乗せて連れ去らんとする妖術師に違いないからじゃ。ここはどうあっても、わしの全力を尽くしてこの悪事を食い止めねばならない。」(勇敢なビスカヤ人との戦い)

 「武者修行の騎士さんって、いったい何なんですか」
 「あんたは、それさえ知らねえほどのねんねかね?」とサンチョは言い、「そんなら覚えときなさいよ、姐さん、武者修行の騎士と
言えば、今しがた棒でぶちのめされたかと思うと、あっというまに皇帝になるもののことよ。つまり、今日は世界で一番不幸でみじめな人間でも、明日には従者にくれてやる王冠の二つや三つは手にしていなさる方というわけさ。」(城だと思い込んだ旅宿で、われらの騎士に起こったこと)

 「兄弟のサンチョ、冒険じゃ。」
 「どうかいい冒険を願いたいもんだよ。ところで旦那様、どこにいなさるだね、その冒険さまは?」(勇敢な<森の騎士>との出会い)

 この間、ミランダは一言も口を利くことなく、ドン・キホーテの言うこと、なすことにずっと注目していたが、彼にはこの騎士が気のふれた正気の人間なのか、正気がかった狂人なのか、さっぱりわからなくなっていた。というのも、彼の話すことは筋が通っており、言葉も上品で、内容もしっかりしているのに、彼のすることは常軌を逸しており、向こう見ずで、ひどく馬鹿げていたからである。(前代未聞のライオンとの冒険)ドン・キホーテの立派な人柄と、その高邁な使命感に感服。

 ドン・キホーテは怒りをあらわにして、荒々しく席を立ったものだから、並み居る人々はあっけにとられ、いったいドン・キホーテという人は正気なのか、それともやはり狂気にとらわれているのか、いずれとも決めかねた。かくしてドン・キホーテは、その緑の草原からほど遠からぬところを走る街道の真ん中で仁王立ちになって、天にも届けとばかり、大音声で呼ばわったのであるー(羊の群れに踏み倒されるドン・キホーテ主従)

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 ドン・キホーテの見ていた世の中とはどういうものだったのか
自分の価値観にあった生き方をする(空想的)理想主義者。-わたしっぽい誰か
理想主義者の特徴として、創造力豊かで、好奇心旺盛、夢や理想に懸命に取り組む、芸術や新しいと思われる概念に惹かれる。理想を追い求めるあまり、時に実現不可能なほど高い目標を果たしてしまう。自分の理想や信念が脅かされると、激しく自分の価値判断を訴えかける。自分の独創的なアイデア(理想)に自信を持ちすぎて、柔軟性がない。完璧で独創的な自分を追い求める。世間と違う人生を送り、それが他人に認められたい評価してほしいと望んでいる。必要以上に原理原則にうるさくなり、自分の理想が正しい思い込みが強くなりすぎると、周りが見えなくなり突っ走ってしまう。物事を一気にやり遂げる傾向を持つ。文章で表現するのが特徴。控えめで、自分の気持ちを伝える相手を慎重に選ぶ。
 
 たしかにこんな人が近いところにいたり、引き込まれたらやっかいである。それでも作家や詩人・ジャーナリスト、政治家や俳優や宗教者などこういった気質から輩出されるのも事実であろう。登山者の中にも高みを目指す者の中にはこういう理想主義者がいるはずである。テレビを観ない、スマホを持たない、大気汚染を起こさない為に空調機を使用しないなど、どこか聖人のようなストイックな人もいるようだ。野心と傲慢の塔に上り詰めた経験のある者には冒険はさらに必要になってくる。

 行動に移さない限り、理想は妄想に終わる。口先だけの理想主義者なんかはクズに違いない。こんな人が現実に立ち戻り、何もできなかったことによって感じるのは無力感と激しいストレスだろう。ドン・キホーテも死に際になってはじめてこれに気付き、改心するように。理想を実現する行動力、そのための環境作り、地道な努力を積める人が理想主義者の姿なのかもしれない。理想と現実のバランスを取り、出来るところから地道に努力を重ねるように。

 小説の起源ともなったドン・キホーテは読み物としては面白い。訳者によってそのことは左右されるようで、内容はだいぶ割愛されているようだが岩波少年文庫の訳が優れている。ドン・キホーテと従者のサンチョ・パンサの狂気と夢想が引き起こす、コミカルで、時間が経つにつれて変化していく二人のやり取りが読みごたえがある。

 「そのうちやる」という名の道を歩いていけば、「何もしない」という名札のかかった家に行きつくことになる。(セルバンテス)


 
 
 
 
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テーマ:山登り - ジャンル:趣味・実用

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